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幻の林檎に懸ける想い


幻の林檎に懸ける想い










ABE果樹園
〒960-2156 福島市荒井字上笊森30
TEL.024-593-3607

林檎の栽培が盛んな福島県福島市で、新たな可能性を追求し奮闘している農家がいます。福島市荒井で「ABE果樹園」を営んでいる2代目の阿部秀徳さん。幻の林檎「高徳(こうとく)」に懸ける想いと、果樹園の未来について聞いてみました。

農業はまだまだ未開拓の分野。
だからこそ「幻の林檎」に懸けてみたい。

今年の4月に父の秀行さんから果樹園を引き継いだ秀徳さん。自宅周辺と離れた場所に約3ヘクタールという広大な敷地で、4種の桃と9種の林檎を育てている。剪定から収穫まで、果樹栽培は年中休みのない根気のいる作業。そんな果樹農業を継いだ理由とは―。

「父親も高齢になってきたという理由もありますが、果樹農業は他の分野に比べてまだまだ未完成な部分があると思うんです。いわゆる“すきま”があるということ。福島は林檎の産地なのでどこの果樹園でも林檎を栽培していますが、ほとんどがメジャー品種の「ふじ」です。その市場のなかで私はあえてまだ生産が少なく、非常に蜜が豊富な“幻の林檎”と言われる「高徳(こうとく)」を育てています。この希少な品種を、広く一般の家庭でも楽しんでもらい認知してもらえるようになることで、果樹園経営に新しい可能性を見い出したい。」

私たちの生活のなかでも身近な果物である林檎は、蜜が多いほど糖度が高く甘い。その中で「高徳」は蜜がなんと全体の7~8割を占めており、まるでスウィーツといった感覚の品種。栽培も難しいのでは―。

「栽培自体は基本的に他種の林檎と変わりませんが、収穫のタイミングが難しいところがネックです。なにしろ「高徳」は蜜の入り具合が一番の売りなので、いい具合かどうかは林檎の色づき加減等を目で見て判断しなければいけません。林檎の場合は朝晩ぐっと冷え込む時期に蜜が入るんですよ。」

自分たちで作った物を、自分たちで売るー。
果樹園経営の理想のカタチを目指す。

葉摘みといった細かな作業から草刈りまで、大量の果樹をすべて管理し手がけるのは並大抵のことではない。果樹経営の現状について秀徳さんはこう続ける―。

「果樹園を営んでいく中で問題になっているのは後継者の不足です。昔から、その家の跡取りが果樹園を継ぐのが当然のような流れがありました。しかし今の時代、こういった保守的な考えのまま果樹園を続けていくのでは、どんどん先細りの産業になってしまいます。日本の農業を存続させるには家の跡継ぎといった固定観念にとらわれず、果樹園または農業そのものに興味がある人、熱意や希望を持った人が自由に経営できる体制を整えていくことが重要ですね。そして、今はまだまだ販売業者への委託に頼っているのが現状ですが自分たちで生産した果物を自分たちで値段をつけ、自分たちなりの手法でパッケージ化して売っていく。今後、こういった生産小売を活発にしていくことで農業全体に新しい風穴を開けられたらと思っています。」

果樹栽培だけでなく農業全体が明るい未来になるように、今自分ができることを実行している秀徳さんはとてもアクティブな経営者であり、時代の流れに沿った様々な試みにも積極的に取り組んでいる。

「近年の温暖化の傾向は、果物の出来にも悪影響を及ぼしています。私たち生産者は一人一人責任を持たなければいけません。当園は今年から農林水産省が推定している『エコファーマー』に認定されました。科学肥料や科学農薬の低減など土づくりの根本的な見直しを行うことで、消費者に安心・安全な果物を供給できたらと思っています。また「高徳」において林檎の木の「オーナー制度」の募集を始めました。消費者の皆さんに、食べるだけではなく作る楽しさや収穫の喜びをぜひ体験してほしいですね。」

福島の豊かな風土や大地はかけがえのない恵みもの。秀徳さんは父・秀行さんの意思やノウハウを受け継ぎながら、幻の林檎とともに新しい果樹園のカタチを生み出すため日々試行錯誤している。そんな愛情と蜜がたっぷり詰まった林檎が、私たちの食卓のもとへ届けられる日がとても楽しみだ。

2010年11月07日(日)