生産者の元で手塩にかけて育てた林檎は、秋から冬にかけ収穫を終え私たちの食卓へ届けられます。
農家にとってはここで一段落なのかと思いきや、冬になればすぐに「剪定」という作業が始まります。
これは1年先の林檎の出来を左右する極めて重要な仕事。
高度な技術が必要な剪定の“ワザ”と“コツ”と“ヒケツ”を福島の林檎農家に伝授するため、ある「伝道師」が青森から来ていました。
二手、三手先を読むのが成田会流
1月の某日、福島の林檎農家を集めて剪定講習会が行われた。講師を務めているのは青森から来福された林檎作りの大ベテランである成田行祥(ゆきよし)先生。
この成田先生を中心とした「福島成田会」「会津成田会」による講習会はこれまで25年間、福島の林檎農家の育成と発展に益してきた。
成田先生が示す林檎作りの重要度に「1に剪定、2に管理、3に消毒散布、4に肥料」とある。
そもそもなぜ林檎栽培において剪定技術がもっとも重要なのか。
林檎の樹は常に生長し枝を増やす。そのまま放っておけば日当りが悪くなり樹全体に十分に養分が行き届かない。これを防ぐため枝を落とし、適度な数に調整していく作業が必要だ。
一見、枝を落とす行為は芽も一緒に落とす事であり収穫量が減るイメージだが、良い芽だけを見極め残すことにより、玉の大きさや色づきを合わせ一定品質の果実を効率よく生産できる。さらには日の当たり具合、葉の生え具合を調整できるので作業の効率も良くなる。ひとつとして同じではない樹一本一本と向き合い、状態や性質、また樹勢を見極めることが肝心であり、常に二手三手先を読むこと、こういった理論に基づいた剪定が“成田会流”なのだ。
ただ、理論的に頭で理解していても実際に木々を目の前にした時にどの枝を落とすか即時に判断できるのだろうか。
樹を見るだけでどんな根を張りどんな実をつけ、翌年の傾向までわかるという成田先生はまるで魔術師のようにも思えてしまうが、それには長年の経験と色づきの良い甘くておいしい林檎を一つでも多く消費者の元へ届けたいという生産者自身の愛情があってこそ到達できるベテランの技なのである。
成田会流“剪定”技術を後世にも
長い年月、福島の林檎農家のバックアップをしてきた成田先生には「年々変化する気候にも立ち止まらず臨機応変に対応し進歩的になってほしい」という思いがある。そうした先生の意思を受け継ぎ林檎栽培の発展に貢献してきた農家のもとへ、その功績を讃えて毎年“成田賞の”受賞者が決定される。
この日受賞した渡辺さんはこの道15年のキャリア。林檎作りを始めた頃は「一手先もわからないのに二手三手先など読めるのだろうか」と不安に陥っていたという。だが、成田先生の手厚い指導により林檎づくりへの愛情が人一倍強くなったのであろう。この日の謝辞では先生への感謝の思いがひしひしと伝わってきた。
普段目にしているスーパーの陳列棚に並ぶ林檎はどれも粒ぞろい。そのひとつひとつは日々試行錯誤しながら良い芽を作り続けてきた生産者達が実らせたものだ。
剪定だけだはなく、仕事に対する心構えも農家たちに優しく教える成田先生。その影響を受け今後も福島の特産品として林檎づくりが豊かなものになるように、牽引する存在が次々現れることを期待してやまない。
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