強い北風が吹き付けるも、3月のそれとはあきらかに違う春の晴れた日。
福島市北原で果樹農家を営む安藤義明さんの農園を訪ねた。
まさに摘蕾作業の真っ最中。剪定に続き根気のいる作業が続けれれていたが、今年の果樹農家はかつてない問題を抱えていた。
成田会の剪定技術を桃、さくらんぼにも生かす。
安藤さんが本格的に成田会の講習を受けるようになったのは平成11年。
父親を亡くし、それまで親子二人で世話をしてきた林檎、桃、さくらんぼ畑を一人で面倒見るようになりながらも、より良い実が着くようにと試行錯誤を繰り返していた。
その頃、青森から来福するようになった剪定のカリスマ、成田行祥氏が開く講習会に安藤さんも時折顔をだすようになり、見聞きした内容を自分流に解釈し畑の木で試していたと言う。
やがて安藤さんの畑でも成田会の剪定講習会が行われるチャンスが巡ってきた。
成田先生に直接指導していただくならこの木、と予め決めていた。自分の得た知識の確認、これまで講習会に参加し、技をその木に注ぎ込んでいた。
現場で実際に成田先生が剪定を始めたとき安藤さんは驚いた。
「自分の予想とは全く逆に切り出したんです。これではいけない。ちゃんと習わなければ…」
今、成田先生が教えてくれた林檎の剪定を安藤さんは桃やさくらんぼの木にも応用し、結果を出している。
「桃の木は林檎よりもデリケートで、同じように切り落とすとダメージを受けることがあるのです。」
ふくしまの農家を取り巻く不安。
取材に訪れた4月5日、安藤さんは桃畑の摘蕾(てきらい)作業を行っていた。
「剪定が終わると摘蕾作業をします。蕾を摘んでいく作業のことです。桃の枝にはたくさんの蕾がつきますが一枝に1~2個残し、すべて摘んでしまいます。」
これもまた気の遠くなる作業だが、間もなくこの畑も鮮やかなピンクの花に包まれる。福島市の春の風物詩といってもいい。
それは待ち遠しい心安らぐ瞬間であると言いながらも、安藤さんの顔は曇っていた。
平成23年3月11日、東日本大震災はここ福島市の果樹農家にも大きな爪跡を残した。
東京電力福島第一原子力発電所事故。そのとき撒き散らされた放射性物質が深刻な影を落としている。
「私自身、生産者であるけれど、自分で作れない作物は買って食べます。どうせお金を払うなら当然美味しいものが食べたい。だから自分が作る果物も色・形・味にとことんこだわりますよ。」
そんな生産者のプライドが揺らいでいる。
愛情を込めて育てた果物は消費者に受け入れてもらえるのだろうか?それ以前に出荷させてもらえるのだろうか?
「一度、木の手入れを止めればその後数年間に渡り影響がでてしまうから手入れをしないわけにもいかないんです。」
安藤さんの畑から今年最初の収穫が始まろうとしている。
さくらんぼの出荷は6月から。その答えが出るのはもうすぐだ。
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