福島市荒井で桃、林檎、プラムを生産する果樹農家、山岸博行さんの農園を訪ねた。
5月の連休の終盤、農園に開いた林檎の花を摘む「摘花(てきか)作業」の現場では人とともに忙しく行きかう小さな働き者の姿があった。
農園に咲いた白い花。
林檎畑に白い花が開き、先月までの殺風景さが嘘のような賑わい!
農園を管理する山岸さんもこの時期をあえて林檎作りのスタートと位置づけていると言う。
この日、林檎畑では摘花作業が行われていた。文字通り花を摘む作業だ。
せっかく咲いた花を摘んでしまうのは、素人目にはなんだかもったいない気もするのだが、美味しい林檎を作るうえでこれもまた大切な作業。
冬を越した林檎の樹木は自身が蓄えた“貯蔵養分”を使い、可憐な白い花を咲かせる。養分は枝の先端に集まる傾向があるのだが、1~2年の枝に林檎の実を付けるには少々荷が重過ぎる。
また、風が吹いても実同士がぶつかったり擦れたりしないよう樹木の生長を見越し、条件の良い中心花だけに養分を行き渡らせ、それ以外の花を間引いていく。
「現在母親と二人で林檎畑の手入れをしていますが、このやり方で管理する以上、今の広さが限界だと思うんです」
そう山岸さんが語ってくれた。
起こり得る様々なアクシデントに対処すべく手をかけ品質管理において些細な手間も惜しまない。
大規模農園の大量生産された林檎の中には商品に適さない林檎も多く生産されてしまうが、ここ山岸さんの小規模農園では徹底した管理のもと不良が出ないよう合理的な生産を目指している。
同じ林檎生産といってもこれほどまでに意識は違う。毎年山岸さんの林檎を求めリピート客が絶えないのはこのような努力が結果に結びついているからに違いない。
春の旅人が結実を担う。
花を摘む傍らで忙しく行きかう小さな働き者、それがミツバチ。
畑のほぼ中央に置かれた小さな木箱。下部の出入り口と思われる溝からたくさんのミツバチが飛び交っている。
林檎は他品種の花粉で受粉・結実する“他家結実”。山岸さんの農園の受粉はすべてミツバチによって行われる。
この小さな巣箱のミツバチだけで2キロ周辺の樹木の受粉作業をやってのけるというから驚く。
そんなミツバチも福島市での仕事を終えると、今度は青森周辺の林檎畑に巣箱ごと運ばれて行く。こうやってミツバチは毎年春を追って九州から北上を続けるのだ。
毎年違う表情を見せる林檎。
てきぱきと摘花をこなしつつ農園を案内してくれる山岸さんは実はまだ果樹農家6年生。
亡き父親の残した農園を守るために脱サラして農業を始めた。
今年は昨年の猛暑の影響で樹木の花数が少ないという。自然に影響を受け毎年違う事例と向き合うのも農業の醍醐味だとか。
サラリーマン時代の山岸さんは補償コンサルティングの会社に勤めていた。具体的には道路拡張に伴う住居等の移転に必要な補償金額の計算などを請け負う。
そんな山岸さんは今回の原発事故の補償についてどう考えるのか?
「果樹農家の場合、被害の金額がいくらになるのかは決算が済むまでは憶測でしか言えない。当面は不安を抱えながらも今まで同様により良い果物作りを続けていくまでです」
この時期、福島の果樹農家はモチベーションを保っていけるかが鍵になりそうだ。
事故を起こした発電所ではまだまだ予断を許さない状況が続く、が一刻も早く事故の収束を願ってならない。
|